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やっぱすげえな、外とは大違いだ

おのぼりさんのように、きょろきょろと周囲を見回しながら歩く。

全てが良質な石材と、赤煉瓦で構築された世界。城を中心にして、放射線状に伸びる広めの街路。通りを挟む建築物はどれも三階建て以上の高さを誇り、驚くべきことに、ほぼ全ての窓にガラスが嵌まっていた。その整然とした街並みは近代の趣すら感じさせ、肌寒い朝の空気と相まって、何処か冷たい印象を投げかけている。

普段、門の外から覗き込むと閑散として見えていた高級市街であったが、この時間帯は忙(せわ)しなく行き交う人々で賑わっていた。その多くは質素だが清潔な衣服を身にまとった使用人たちで、加えて小型の馬車に乗る商人たちの姿も散見される。そしてそれらの通行人に、威圧的な視線を向ける赤い衣の衛兵(ガード)達。

ウルヴァーンの象徴たる竜の紋章を縫い付けた赤衣に、ぴかぴかに磨き上げられた金属製の胸当て、派手な羽根飾りのついた兜。その手に握られているのは装飾過多の斧槍(ハルバード)―まるで玩具の兵隊だな、とケイは思う。だがそうやって観察するうちに、ふと衛兵の一人と目が合った。

―おい、そこのお前!

通行人を押しのけて、のしのしとこちらに近づいてくる衛兵。反射的に周りに怪しい影を探したが、残念ながら、マークされているのはケイ自身のようだった。

なぜ怪しまれるのか。特に見咎められるような憶えもない、自分の体を見下ろしてケイは首を傾げる。この日のためにアイリーン共々新しい服を仕立て、貧乏臭く見えないよう気をつけていたのだが。

……俺か?

そう、お前だ! その腰につけているものは何だ!

ケイの腰の弓ケースを指差し、衛兵が咎めるような口調で言う。ああ、と合点がいったケイは、

これは、弓ケースだな

……許可無く第一城壁の内側に武器を持ち込むのは禁止されている。ましてや飛び道具など……貴様、それを知ってのことか

許可ならあるぞ

何やら不穏な気配を漂わせる衛兵に、肩をすくめながら身分証を提示するケイ。一般市民ならば兎も角、ケイは名誉市民なので、特権的に一級市街区への刀剣類や弓具などの持込が許可されている。『個人で携行できるもの』と制限はされているが、現状ケイが所持しているのは”竜鱗通し(ドラゴンスティンガー)“と長剣だけだ。法律上は何の問題も無い。

ちなみに、名誉市民であろうと何であろうと、鏃や十字弓(クロスボウ)の矢弾(ボルト)、あるいはそれに類する鋭利な凶器などの『遠距離から対象を傷つける道具』の持込は、暗殺防止の観点からかなり厳しく制限されている。万が一許可無しで持ち込んでいるのが露見した場合は、王侯貴族からの擁護でもない限り、問答無用で死罪に処せられるらしい。

サティナの麻薬検査に比べれば、城門で厳密なボディチェックがあるわけでもなく、その気になれば隠し持って入るのも不可能ではないだろうが―、いずれにせよケイには縁のない話だ。

許可……む、名誉市民か、ケイイチ=ノガワ……この名前……

ケイから受け取った身分証に目を通し、兜の下、口元を引き結ぶ衛兵。

あっ、隊長。この人、今大会の射的部門の優勝者ですよ

近くに居た別の衛兵が、ひょこひょこと近づいてきてケイを指差した。

自分、会場で見てたんで顔覚えてます

む、そうか

部下の言葉に、手の中の身分証と目の前のケイをしげしげと見比べる衛兵。先ほどからやたらと威圧的な態度といい、色々と遠慮の無い奴だな、とは思いつつも口には出さず、ケイは小首を傾げて見つめ返した。

……ふむ、失礼した。ちなみに、そちらは

俺の妻だ

はいコレ婚姻証明書

手際よく、羊皮紙を広げて見せるアイリーン。今度は手に取るまではせずに、衛兵はさっと文面に目を通し、

む、これは失礼した。怪しい者ではなかったのだな

あんたの同僚が城門で見張ってるんだから、ちょっとは信用しろよー

ぷーっと頬を膨らませたアイリーンの一言に、衛兵はこつんと兜を叩いて苦笑する。

ふむ、まあ確かに、その通りだが。どうにかして壁を乗り越えて忍び込んでくる、不逞の輩がいないとも限らんからな

いずれにせよ失礼した、と言いながら、そのまま彼は自分の持ち場へ戻っていった。

お気を悪くなさらずに。うちの上司、アレでかなり真面目な性質(タチ)でね

助け舟を出した部下の衛兵が肩をすくめ、おもむろにケイに向き直る。

ところで! 良かったら握手してもらえませんか? 大会でのご活躍、見てましたよ! 本当に凄かったですね! 自分なんかもう大興奮でッ!

あ、ああ。楽しんで貰えたなら何よりだ

ぐいぐいと押してくる部下衛兵に少し気圧されながらも、差し出された手を握り返し、まんざらでもない様子を見せるケイ。それを見て、ふーむと眉をひそめたアイリーンが、

なあ、ケイって大会で優勝した割に、あんまり顔と名前が知られてないのか?

えっ? ……うーん、そうですねえ、

その問いかけに、ケイの手を握ったまま首を傾げた部下衛兵は、

……人によるんじゃないでしょうか。会場にいなければ顔は分からないでしょうし、余所者が優勝した、って聞いただけで興味を失くす人も多いですからね

え~、なんだそりゃ

がっくりと脱力して、アイリーンが気の抜けた声を上げる。

ああでも、うちの上司は例外ですよ。あの人、ついこの間まで所用で別の都市に行ってたんで、そもそも大会のことあんまり知らないんです

そうだったんだ。いやさ、さっきみたいに何度も止められたら、鬱陶しいじゃん?

……そんなに、何度も来る予定なんですか? 一級市街に

ああ。図書館に用事があってな。しばらく調べ物をすることになると思う

重々しく頷きながら、ケイ。

なるほど、図書館ですか……。私たち衛兵の数も限られてますから、そのうちあなたの顔も知れ渡ると思うんですがねー。そういうことでしたら、馬か馬車で乗り入れたらどうです? 城門を越えた時点で、呼び止められることはなくなると思いますよ

……成る程、馬ごとは忍び込めないからな。しかし図書館に厩舎はあるのか?

あります。何せ遠路はるばる来られる、高貴な身分の方々もいらっしゃいますからね。よほど凶暴な騎獣でもない限り大概のものはお世話できるでしょう

ほう。ならば次回は、馬で乗りつけるとしようか

図書館に行く日、ずっと厩舎に押し込められているよりは、少しでも歩けた方がサスケたちも気分がいいだろう。握手(ファンサービス)も切り上げて部下衛兵に助言の礼を言い、ケイたちは再び歩き出した。

―しかし、職務質問が鬱陶しいから馬に乗るというのも、間抜けな話だな

仕方ねーよ、だって実際鬱陶しいもん

ケイの呟きに、ひょいと肩をすくめるアイリーン。

ここしばらくアイリーンと一緒に過ごして分かったが、どうやら彼女は『アウェー感』というものが非常に苦手らしい。文化的・精神的に受け入れてもらえない、あるいは自分にとって相手が受け入れがたい、という状況に酷くストレスを感じるようだ。特にウルヴァーンは官民揃って余所者には冷たいところがあるので、このところのアイリーンはどうにも不貞腐れ気味だった。

元々、欧米人に混ざって一人でゲームを遊んでいたケイは、そういった疎外感にはもう慣れっこであったが―。

ちらりと隣を歩くアイリーンに目をやる。つまらなさそうな、ちょっと落ち込んだような、このところよく見かける表情。ケイは無造作に、その金色の髪に手を伸ばした。

な、なに

突然、わしゃわしゃと頭を撫でてきたケイに、アイリーンが目をぱちくりさせる。

……なんだよケイ

いや、お前が居てくれてよかったよ

はぁ?

さらに目を瞬くアイリーンに、照れ臭くなって頬をかいたケイは、 なんでもない と首を振った。

大通りを抜ける。

いつの間にかケイたちは、噴水のある大きな広場に出ていた。足元はこれまでと違い、赤煉瓦ではなく大理石のタイルで固められている。さんさんと降り注ぐ陽光の下、きらきらと輝く白色の世界が、目の前に広がった。

そして、その先にそびえ立つ、白亜の宮殿。

……これが、

―とうとう、辿り着いた。

ウルヴァーンの誇る、叡智の結晶。

公都図書館が、今ここに二人を迎えた。

†††

まず、その佇まいに息を呑む。

装飾が、造形が、周囲の建築物とは一線を画していた。背の高さは、付近一帯と比べてもそう大差ない。だがその圧倒的なまでの奥行きが、蔵書量の凄まじさを予感させた。

構造は端的に言えば半月に近い。来訪者を迎え入れるようにして、建物全体が緩やかに孤を描いている。正面の幅は百メートルを優に越えているであろう。一階から三階まで細長いアーチ状の窓が設けられ、その全てに極めて透明度の高いガラスが嵌まっていた。

壁面は上品な白。大理石のなめらかな輝き。まるで太陽の光に染め上げられたかのような飴色の照り返しが美しい。そして石材の光沢によってさらに引き立てられているのが、一面に刻み込まれたレリーフだ。花や蔓、小動物の意匠は職人の執念を感じさせるほどに繊細で、その陰影が大理石の色と絶妙なコントラストを生んでいた。仮にそれらを芸術品として見た場合、一体どれほどの価値を持つのか―呆けたように視線を這わせながら、ただただ感嘆の溜息が洩れるばかり。

また、壁と一体化する形で随所に配された、精巧な彫像にも目を奪われる。今にも動き出しそうな―とはよく聞く表現だが、これらの彫像はその真逆を行っていた。まるで、生命(いのち)ある者の時をそのまま止め、石として固めたかのような生々しさ。元素の精霊を象ったものか、あるいは歴史上の偉人を再現したものか―羽衣をまとった乙女たちが妖艶に微笑み、分厚い本を手にした老人が厳(いかめ)しい顔つきで空を睨む。髪の毛一本、風にはためく衣のしわ、そういった細部が恐ろしいまでに彫り込まれている。

そして、それらの中でも最も目を引くのは、図書館の中心部、屋根に鎮座する一体だ。右手に剣をだらりと下げ、左手に短杖(ワンド)を高らかに掲げる美丈夫の姿。その背中にはまるで天使のように、大きな一対の翼が広げられている。ただし、その翼は鳥のそれではなく、蝙蝠のような、爬虫類のような、あるいは―“竜”を彷彿とさせる、皮膜と鋭い爪を持つ攻撃的なものであった。

まっすぐに前を向いた美丈夫は、どこまでも凛としてそこに在る。厳しい表情は下界を睥睨するが如く、それでいてある種の慈愛を漂わせる。竜のような荒々しさの中に、母性的な穏やかさを内包する存在。欲求に対する理性の勝利と、知のもたらした調和を高らかに謳(うた)う、気品に満ち溢れた像であった。

しばし声もなく、ケイたちは見惚れる。

……すげえな、まるでルーヴルだ

やがて、アイリーンが口を開いた。

ルーヴル?

ケイがオウム返しにすると、アイリーンは小さく頷いて、

そ、ルーヴル美術館。パリの

……行ったことあるのか?

うん、小さい頃に、一度だけ……

遠い日の記憶と重ね合わせているのか、アイリーンはぼんやりした表情だった。

ルーヴルって、こんななのか……

あー、いや、建物自体は似てる。けど、こんな感じの石像はついてなかったな。どっちかっつーと、石像のノリはヴァチカンのサン・ピエトロ広場っぽいと思う

そうなのか……

成る程、と頷くケイも、やはり何処かぼんやりとしていた。

……そろそろ、入ってみるか?

そう、だな。ここで見惚れてても意味ねーし

二人で よし! と気合を入れ、ケイたちはゆっくりと歩き始める。

図書館正面の入り口は巨大な観音開きの扉だ。木の枠にガラス細工が嵌め込まれ、中が透けて見える構造になっている。鉄格子の嵌まった一階の窓に比べると防犯性能は無きに等しいが、扉の両側には屈強な二人の警備兵が立っていた。

両者ともに街中の衛兵よりは軽装で、胸当ても兜も装備していない。黄と黒の縞模様の衣を身に纏い、手には背丈より少し長い程度の金属製の棒を握っている。ハルバードに比べれば随分と大人しい得物だが、恰幅のよい男が持てば威圧感は充分だ。いかにも職務に忠実、と言わんばかりに真面目腐った顔で、二人とも直立不動の体勢を維持していた。

ケイたちが歩み寄っても、警備兵たちはぴくりとも表情を動かさない。そのまま呼び止められることもなく、ケイが取っ手に触れようとしたところで―音もなく、独りでに扉が開かれた。

一瞬、虚を突かれて固まるも、すぐに あっ とアイリーンが何かに気付く。

これ、魔道具じゃん

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