Читаем Vermillion полностью

ホアキンは ほ~そうですか~~ と完全には納得していないことを匂わせつつも、それ以上突っ込んではこなかった。

まあ、歌にして広げようとは思いませんよ。そこはご安心を。……酒の肴くらいにはするかもしれませんが

程々に頼むよ

心得てますよ

そう言ってホアキンは笑っていた。いずれにせよ、イリスたちと付き合いが続くなら、遅かれ早かれ噂にはなるだろう。その程度なら実害はない、とケイも笑って許すことにした。

それからサスケとスズカのブラッシングをして、コーンウェル商会のホランドと家購入の進捗状況を聞いて。

イリスから連絡が来たのは、そんな折だった。

野掛(ピクニック)でもいかが? という誘い。コウとの情報共有が終わったのだろう、改めてケイたちとも話をしたいらしい。

屋敷からの使いの者に了承の旨を伝え、さらに数日後。

ケイたちは、サティナ郊外の草原にいた。

†††

コウから事情を聞いたわ

白馬を並足で駆けさせながら、揺れる馬上でイリスが言う。

正直、まだ実感が湧かないのよね……もちろん、あなたたちを疑ってるわけじゃないんだけど……

ぽつぽつと、素の口調で語るイリス。ここでは猫をかぶる必要もない。周囲にはサスケとスズカを駆り並走するケイたち以外、付き従う者もいないからだ。これがイリスの狙いだったのだろう。

ちなみに、ピクニックに同行した使用人たちは、木立のそばにテントを張って、お茶の用意をしている。その横にはデッキチェアに座り、何やら書き物をするコウの姿もあった。今日は乗馬の気分ではない―とのことだが、おそらくは、使用人を自分の方に引きつけておき、イリスを自由にさせる腹積もりだろう。

鷹の目を凌駕するケイの視力は、ちらちらとこちらを窺い見るメイドの目の動きを、事細かに捉えていた。

はぁ……

馬の脚を止めて、ぼんやりと地平線を眺めながらイリスはため息を一つ。草原の風に黒髪がたなびく。

今日はドレスではなく乗馬服姿だ。キュッとウエストが絞られたジャケットに、ぴったりとしたズボン。首元には白いスカーフを巻き、少し大きめのトップハットをかぶって獣耳を隠している。

相変わらず、様になっていた。儚げな表情、憂いを帯びた視線も相まって、白馬にまたがる姿は一枚の絵画のようですらある。タイトルをつけるなら、『物思いに耽る騎乗の麗人』、あるいは『元の世界に帰れない衝撃を噛み締める異世界人』といったところか。

いい感じに服装がキマっているイリスに対し、ケイたちは、ほぼいつもどおりの格好だ。草原に出るということもあって、ケイは革鎧を装備しマントを羽織った狩人スタイル。アイリーンはいつもの村娘風の装いで、ベルトに護身用のダガーを差している。

(……お粗末だなぁ)

イリスと並ぶと格差が酷い。貴族並に遇されているイリスと同程度とは言わないまでも、見苦しくない程度に服飾品を揃えた方がいいかもしれないな、とケイは考えた。今後とも、イリスたちとの関係が続くならなおさらだ。

ねえ、二人は納得してるの? 得体の知れない自称『悪魔(デーモン)』とやらに、帰還は無理だって断言されて

不意に振り返ったイリスが、問う。

……納得、か

難しいな、とケイは空を見上げた。

……オズは、凄まじい力を持っていた。まさに『上位者』ってやつだった

アイリーンがぽつりと呟くようにして答える。

リアルタイムで思考を読むわ、記憶を読み取って魔力に変換するわ。挙句の果てには虚空からオレん家の冷蔵庫と、キンキンに冷えたコーラを出してきやがった。魔力で作り上げたんだぜ? 半神(デミゴッド)みたいなもんだよ

呆れたように肩をすくめてみせるアイリーン。

だが……それでいて、紳士的な態度だった。格下のはずのオレたちに対しても、な。サービス精神と好奇心、共に旺盛な異世界の隠遁者―それがオレの印象だ。悪意のある存在だったら、オレたちは生きて帰ってこれなかっただろうし、わざわざ嘘を吹き込む理由も必要もない、とオレは思う。はっきりした証拠なんてのは示せねえけど、オレから言えるのはそれだけだよ。フツーにいいヤツだった

……随分と肩を持つのね

まあー、ぶっちゃけさ。仮に悪意を隠してたとしても、オレたちにはどうしようもないワケよ

なあ? とアイリーンに同意を求められたので、ケイも重々しく頷く。

だな。彼我の力量差がでかすぎて、対話できただけでも奇跡と言えるぐらいだ。……とはいえ、俺たちもオズの話をただ鵜呑みにしてるわけじゃない。なんだかんだで、彼の話には説得力があった

曰く、世界を渡るには膨大な魔力が必要である。

曰く、魂を失った肉体は衰弱死する。

曰く、こちらと向こうの世界では、時間の流れが違う可能性がある。

まず、世界を渡るのに凄まじい魔力が必要、というのは疑うまでもないだろう。ワープ航法みたいなものだろうし

オズは『世界を渡るには、大陸全土を耕すくらいの魔力がいる』と言っていた。オズの力があれば世界渡りも可能かもしれないが、ケイたちではそれに見合う対価を差し出せない。たとえ国中のあらゆるものをかき集めても、触媒として捧げるには足りないのではなかろうか。

そして、仮に対価を出せたとしても―

『魂を失った肉体は衰弱死する』。これも、わからんではない。そんな気はするって程度の考えだが

そもそも地球では、魂の存在を知覚することも、証明することもできなかった。その上で、理屈を抜きにして、直感的に理解しやすい話ではある。

最後に、時間の流れについては―奇しくも、俺たちの出会いで完全に証明されてしまった

ケイの言葉に、イリスは ……そうね と首肯する。

ケイたちがこの世界に転移してから、おおよそ四ヶ月が経つ。

それに対し、イリスたちがこの世界に来たのは、二ヶ月半ほど前らしい。

そして DEMONDAL 内で『ケイ』と『アンドレイ』が失踪したのは、イリスたちが転移する一週間ほど前のことだそうだ。

つまり、地球で一週間経つ間に、こちらの世界では一ヶ月半が経過していた。

オズは理論的なヤツだった。そして彼の話が本当なら、色々と辻褄が合う。彼の話に納得したか、と聞かれれば……納得した、と言わざるを得ないな、俺は……

ため息まじりの言葉は、ざぁっと吹き寄せる草原の風に紛れて消えていった。

波打つ草原の彼方に、舞い踊る”風の乙女”の姿を幻視したケイは、ふともう一つの『根拠』と呼べるものに思い当たる。

それと、精霊だ。俺とアイリーンの契約精霊がオズにも友好的だった。この世界に来てから、精霊には何かと……助けられてる、からな

ちょっと悔しそうに、ケイは言った。

だから、精霊の振る舞いから、オズも信用できると判断したわけだ

……なるほど、ね

ただ、それを第三者から聞いてもしっくりこない、ってのはわかるぜ。オレたちだって、オズのアホみたいな力を見て、ある意味、諦めがついたわけだし

俯くイリスに、アイリーンがフォローを入れる。

いや、いいのよ。わかってるの。今から荷造りして、北の大地に出向いて、魔の森とやらに分け入って、オズに会って―そんなこと、やる気にもなれないもの。納得できないなりに納得するしかないわよ

だってゲームの世界に転移すること自体、理不尽で突拍子がないことなんですもの、とイリスは言う。

その点は、ケイたちも納得しきれていない。

オズはこの転移について、時の大精霊『カムイ』の仕業だろうと睨んでいたが、そもそもなぜ膨大な力を消費してまで、カムイがケイたちをこの世界に呼んだのかは謎のままなのだ。

ただ、カムイを呼んでも出てこないので、確かめようがない。

納得できないなりに、納得するしかない―。

はぁ。まあ、考えても仕方ないから、そのうち気持ちを整理していくわ

話を聞いてもらえただけでもモヤモヤがマシになった、とイリスは無理に笑う。

この世界で生きていく、か……。そうだ、ちょっと相談があるんだけど

ぽん、と手を叩くイリス。

その、アイリーンに

えっ、オレ?

突然の指名にアイリーンが驚く。

無理もない。ケイだってイリスとは浅い付き合いしかなかったのに、アイリーンはそれに輪をかけて、交流がなかったのだ。ケイはまだ、イリスたちPK三人組と幾度となく交戦したことがあるが、『アンドレイ』は―ケイの知る限りでは、一度も戦ったことがないはず。

困惑するケイたちに、イリスは言いにくそうに、

その……女同士のことで……

……あ~

ケイはなんとなく察した。自分は席を外した方がよさそうだ、と。

じゃあ、俺はコウと話してるよ

オーライ

馬首を巡らすケイに、アイリーンが頷く。

それじゃ、お悩み相談コーナーといくか―

そんなアイリーンの声を背中に聞き流しながら、ケイはコウと使用人たちの元へ戻っていった。

†††

で? 相談ってなんだ?

使用人たちに怪しまれないように、トコトコと馬を駆けさせながら、アイリーンは口火を切る。

突然ごめんなさいね。相談、っていうか、ちょっと聞きたいことがあって

イリスは、もじもじとしてから、

……その、あなた、ケイとはどういう関係?

は?

どういう意図の質問だそれは、とアイリーンはまず不審に思った。

不躾でごめんなさい。ただの興味本位ではあるけど、教えてくれると助かるわ

イリスは存外に真剣な顔だ。

ええと……まあ、恋人……だけど

アイリーンはぽりぽりと頬を掻く。改めて答えると恥ずかしい。なぜだろうか。相手が同郷の人間だからか。

そっか……そうよね。そっかー

はぁ……とため息をつくイリス。

それが、何か関係があるのか?

うーん、身の振り方を考えてるのよ……この世界に骨を埋める覚悟を決めた先達として、あなたの、相方(パートナー)との距離感が知りたかったの

なるほど……?

わかったような、わからないような。

そういうそっちは、相方(コウ)と何かあるのか?

何(なん)っっっにもないわ。それが問題というか

イリスの顔は、どことなくげっそりしていた。

あたしに見合い話が来てる、ってのは聞いたでしょ? 箸にも棒にもかからない木っ端貴族とか、金持ちだけど獣耳趣味の変態オヤジとか、そういうのがわんさか来てるのよ……

……おおう

自分ではまずありえない境遇に、アイリーンは口の端を引きつらせた。

はっきり言って、断りたいわ。体のいい厄介払いだろうし。でも理由もなく断り続けるのも難しくって

お姫様扱いしてもらってるんだろ? それなら、ある程度のワ(・)ガ(・)マ(・)マ(・)くらいは通るんじゃないのか?

やー、お姫様扱いって言っても、領主がコウの顔を立ててるだけだから。あたしなんてオマケよ、世話してる方からすればむしろ邪魔でしかないはず。家もコネも金も特殊技能もないお姫様なんて、ただの金食い虫でしかないし

そして当然、そんな金食い虫を迎え入れるとなれば、身体が目当てとしか考えられないわけで。

そういう意味で、あたし今、ものすっごくコウにお世話になってるのよ。正直、コウは全然……その……タイプと違う人だったんだけど、頼りになるし、もし求められたら応えなきゃな、くらいには考えてたの。でもね!?

話しながら、徐々にヒートアップしていく。

何(なん)っっっにも! 本当に何にもないのよ!! 言い寄ってくるとか! 口説いてくるとか! 一ミリもないの! ……あたし、これでも、顔とかスタイルにはけっこう自信あったんだけどなぁ……

そ~だな~

馬の足並みに揃えて、乗馬服越しにたゆんたゆんと揺れる双丘。それを半目で眺めつつアイリーンは相槌を打った。

さすが英国紳士(ジェントルマン)―なんて感心してる暇もなくなってきて。これからどうしたもんか、悩んでるのよ! すなわち! 金持ち変態オヤジの愛人になるか、コウにアタックを仕掛けるか……! 今がギリギリというか、もう瀬戸際なのよ……!

ぐっと拳を握りながらイリス。アイリーンは お、おう……そうなんだ…… と気圧されながらも、ひたすら相槌を打つ。

だから、その、あなたはどうしてるのかな~って思って~

きゃぴ☆、とウィンクするイリスだが、本音は少し違う。

―もしケイがフリーなら、ケイにアタックするのもアリだと思っていたのだ。

なぜなら、けっこう好みだから。『公国一の狩人』として、ウルヴァーンの名誉市民に認定されたことも聞いていたし、今のようなお姫様暮らしは無理でも、そこそこ食ってはいけるだろうという打算もあった。

Перейти на страницу:
Нет соединения с сервером, попробуйте зайти чуть позже