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が、話はまだ終わっていない。ソファにゆったりと座り直したデータスが下卑た笑みで尋ねてくる。データスの斜め後ろで、フェルナンドが小さく肩を竦めるのをケイは見逃さなかった。まだ諦めてないのかこのオヤジ、と呆れ半分にちらりとホランドの様子を窺うと、彼も同様にあからさまな呆れを覗かせていたので、これは深刻な事態ではないと判断する。

もちろん、連れて帰る

ぶっきらぼうに、ケイは答えた。

ほほう。吾輩が城門を閉じよと命じてもか?

帰り道を塞ぐというわけだ。しかしケイは動じなかった。

別に構わない。幸いこの城は、飛び降りる場所には事欠かないからな。……妻と一緒に飛んで帰るさ

胸の奥、力の源からフッと何かが抜き取られる感覚。

ふわりと、窓の隙間から不自然な風が吹き込んだ。不敵に笑うケイの背後、データスは、羽衣を纏った乙女の姿を幻視する―

……なんと、魔術師か

さしもの領主もこれには驚き、目を見開いた。傍らのフェルナンドが反射的に剣の柄に手を置いたが、危険は少ないと判断したのか、ゆっくりと直立の姿勢に戻る。

おいホランド、聞いとらんぞ

私めも驚いております

眉を吊り上げるデータス、ホランドも本当にびっくりしたような顔をしている。

はて、とケイは首を傾げたが、よくよく考えてみれば、ホランドの前でケイが魔術の技能を披露したのはこれが初めてだ。精霊語(エスペラント)を含む魔術の知識については察していたかもしれないが、風の精霊(シーヴ)と契約していることまでは知らなかったのだろう。

吾輩は魔術には疎いので何とも言えんが……まさか風の精霊か? その若さで元素の大精霊と契約し、なおかつ崖から飛び降りても平気なほどの術を行使できるとは、俄には信じがたいが……

目を細め、顎髭を撫でながら唸るデータスに、ケイは内心ドキッとした。実のところ虚勢を張っているのだ。崖からの紐なしバンジージャンプは、手持ちの宝石と魔除けの護符(タリスマン)を全て触媒に捧げてもなお、今のケイの魔力で成立するか怪しい大技。やってみろと言われればかなり厳しい。

……しかし、ふははっ、信じがたいがそれでこその『英雄』か。まさに、お前のような『例外』が、そう呼ばれるのであろうな……

が、勝手に納得したデータスは、お手上げのポーズを取って疲れたようにソファに身を預ける。

……普通ならば、お前のように有望な魔術師は放っておかんのだが。どうだ? 吾輩の下で働いてみぬか?

残念だが、遠慮する

であろうなぁ

ダメ元の勧誘をすげなく断るケイ。データスは失望する風もなく溜息をついた。彼としてはむしろ、ケイが喜び勇んで承諾した場合の方が困るのではなかろうか。

閣下、正義の魔女も魔術師として勧誘すれば穏便に済んだのでは?

と、フェルナンドが横から口を挟む。

……しまった、その手があったか! 雇ってからお手つきにすれば……!

今更のように悔しがり始めるデータス。もはや怒る気力すら湧かないケイは、アイリーンと顔を見合わせて苦笑するほかなかった。

†††

その後、申し訳程度に 深部 での出来事を話してから、ケイたちは解放された。

ホランドは記念と称して高級葡萄酒の小樽を、ケイたちは情報料として金一封をそれぞれ与えられた(大した額ではなかった)。英雄たちのこれからの更なる活躍を祈る、などと、ありがたくも投げやりな言葉とともに送り出される。

あれはあれで、悪い御方じゃないんだ

坂道を下りながら、ホランドが呟くように言った。

好色であけすけなところがあるのが玉に瑕だが……気位が高い貴族よりも、よほど親しみがあって、付き合いやすい

……まあ、わからないでもないぜ

頭の後ろで手を組んだアイリーンが、溜息混じりに首肯する。

ユーリアの街は栄えてるしな。少なくとも領主としては有能なんだろうな、とはオレも思ってたさ

街は良くも悪くも、領主の鏡というからね……

その結果が交易と色街、か。金が取り柄のスケベオヤジなのは確かだな

スズカの手綱を引きながらフンッと鼻を鳴らすケイ。いつになく毒のある口ぶりに、思わず二人が苦笑した。

……しかし、それにしてもケイが魔術師だとは知らなかったよ……

言ってなかったか?

聞いてないよ。全く本当にお伽噺の世界さ、“大熊(グランドゥルス)“を弓矢の一撃で仕留める魔術師だなんて滅茶苦茶だ!

途中から、ホランドの言葉は悲鳴のようだった。

そうは言っても、アイリーンだって白兵戦に強い魔術師だぞ。弓矢が得意な魔術師がいても不思議じゃない

いや、君、そういう問題じゃなくてね……

それに俺の魔術技能は、アイリーンに比べれば大したことはない

実は大見得を切ったんだ、とケイは肩を竦めてみせる。

……それじゃあ、さっきの飛び降りるってのは……?

強がりみたいなもんだ

あっけらかんとケイがそう明かすと、ホランドは オーララー と高原の民風(ア・ラ・フランセ)に天を仰いだ。

領主様が変な気を起こさなくてよかったよ……

まあ、一応、切り札も用意していたがな。もし本気で手を出してくるようだったら、俺もそれなりに脅すつもりだったさ

へえ、どうするつもりだったんだ、ケイ?

スズカのたてがみを撫でていたアイリーンが、興味深げに尋ねてくる。

簡単だ。『突風を起こして、ユーリアの街の道端のゴミを全部湖に放り込んでやる』と言うつもりだった

ニヤリと笑って、ケイ。それは現状、ケイの魔力と手持ちの触媒によって行使可能な術の中でも、最も現実味があるものだった。

そしてユーリアは、はるか昔、シュナペイア湖を汚しすぎたせいで水の大精霊の怒りを買い、街の大部分を沈められた過去を持つ―

弾かれたように、ホランドが眼下を見やった。

宿場や色街が密集する、猥雑としたユーリアの街並みを―

……本当に、領主様が変な気を起こさなくてよかった……

思わず、額の冷や汗を拭うホランド。同時に、あの場でケイがそれを口走らなくてよかった、とも思う。データスは貴族としては驚異的なまでに寛容な領主だが、街に危害を加える者には容赦しない。そしてケイに『それ』が可能であると知れば、全力で然るべき処置を講じただろう。

万が一の奥の手、さ。俺だって、今の発言がどれだけ危険(リスキー)かはわかってるつもりだ

ホランドがあまりにビビっているので、ケイはおどけたように付け足す。限定的とは言え、街を滅ぼす力を持っているのだ。暗殺されるのは御免だった。

本当に万が一のときは、『一度だけ助けてもらえる指輪』を使ってオズを呼び出すという手もあるわけだが―

と、そんな話をしながら歩いていると、坂道の下に新たな人影。

見れば、コーンウェル商会の小間使いと、話題の吟遊詩人ことホアキンが、えっちらほっちらと坂道を上がってくるところだった。

やあ、皆さんお揃いで

こちらに気づいたホアキンが手を振ってくる。

ホアキンもお呼ばれか?

クイッ、と背後の城を親指で示しながらアイリーン。ホアキンが苦笑して頷いた。

ええ、随分と寝坊してしまったようで……皆さんはもうお帰りなんですね。どうでしたか? ユーリアの領主様との謁見は

うーん……

ニコニコと朗らかに笑うホアキンを前に、一同は顔を見合わせる。

……まあ、なんというか、ホアキンは男で良かったな。美女だったらどうなったことかわからないぞ

渋い顔でケイがコメントすると、一瞬きょとんとしてから破顔するホアキン。

ええ、ええ、そうでしょうね。データス様は女好きで有名ですし……ああ、成る程、そういうことですか

アイリーンとケイを交互に見やり、何かを察したホアキンが面白可笑しそうに目尻を下げる。

ぜひ今度、何が起きたのか教えてください。残念ながら今は急いでますので……

ああ、早ければ明日にでも教えるぜ

手をひらひらとさせるアイリーン。ホアキンは微笑んで一礼してから、急ぎ足で坂道を登っていった。

その後ホランドとも別れ、ケイたちは宿屋”GoldenGoose”亭に帰還する。思ったより早く帰ってこれたとは言っても、日は既に傾きかけていた。今頃はホアキンが一曲披露しているのだろうか。自分たちの武勇伝を聞かされたとき、あの領主はどんな顔をするかな、と考えると可笑しかった。

あ~疲れた……

部屋に入るなり、アイリーンがベッドにダイブする。手土産の金一封の革袋をサイドテーブルに放り投げ、ケイもアイリーンの隣にどさりと倒れ込んだ。

全くだ……しかし無事帰ってこれてよかった

アイリーンの頬を、そっと指の背で撫でながら、ケイ。

ホントだぜ。いやもう、子供がうんたらとか言い出したときは……ゾッとした。あ~もう思い出したくもない!

頭を抱えてジタバタと悶えるアイリーン。確かにアレはキツかったろうな、とケイも心の底から同情した。

俺もたまげたよ。一発ぶん殴ってやろうかと思ったくらいだ

ハハッ。ケイ、あんときスゲェ顔してたもんな

……そうか?

ぺたりと自分の頬に手を当てて目を瞬かせるケイに、アイリーンはニヤリと楽しげに口の端を吊り上げる。

そうとも。隣でホランドの旦那がヒヤヒヤしてたぜ

ほう。そいつは悪いことをしたな

悪びれる風もなく真面目腐って言うケイに、アイリーンはくすくすと笑った。

しかしホランドの旦那が、シーヴを知らなかったのは傑作だったな

思えば、意識的に見せたことはなかった。知らないのも当然か……

ホランドとはそれなりの付き合いになるが、お互いにまだまだ知らない部分も多いということだ。例えば、ホランドの娘エッダは肌の色からして明らかに養女だが、その辺の事情も詳しく聞いたことはない。

サティナについて落ち着いたら、旦那とも親睦を深めないとなー

魔道具の件がある。否が応でもそうなるだろうさ

そうだな。…………リリーは元気かな

ぽつりと、アイリーンが心配そうに呟いた。

リリー。サティナで麻薬密売組織に誘拐され、アイリーンに助け出された少女。別れ際まで寂しそうだったのが、強く印象に残っている。信じていた人に裏切られて、心に深い傷を負っていた風もあった。今頃はどうしているのだろう― きっと元気さ とは、無責任に口に出すことが、ケイにはできなかった。

…………

無言で、アイリーンが手を伸ばし、おもむろにケイの右腕を抱きかかえた。

少しだけ目を細めて、アイリーンがこちらを見てくる。

ケイはその目が好きだ。こちらを探るような目。今、アイリーンは何を考えているのだろうと、ケイはそれを知りたくて堪らなくなる。

しばし二人で見つめ合ってみた。でも、結局、何もわからない。

わからなかったので、ケイはアイリーンの額に口付けた。

口元をほころばせたアイリーンが、ずりずりとベッドの上に這い、少しだけケイよりも高く目線を置いて、張り合うように額にキスしてくる。

すかさずケイも上へ、アイリーンも負けじとさらに上へ―終いには二人してベッドの枕元に頭をぶつけ、下らないのに可笑しくて笑ってしまう。

アイリーンがケイにのしかかってきたり、仕返しでケイがアイリーンをひっくり返したり、決して広くはないベッドの上でしばし、小犬のようにじゃれ合った。

不意に、二人の手が絡まる。指が絡まる。握り締める。

少しだけ、汗ばんでいるように感じた。鼓動も感じる。にぎにぎと、相手を確かめるように変わる力加減も。その全てが愛おしい。

動きを止めて、二人に視線がぶつかった。また、お互いを探るような。

……今、なに考えてるかわかる?

身体を投げ出したアイリーンは、どこか挑発的だ。

ケイは答えない。その代わり、しっかりと口付けた。

熱を感じる、鼻息がくすぐったい。

水気のある音を立てて唇が離れると、彼女はいたずらっぽく笑う。

……正解

今度は、わかった。

それが嬉しくて笑う。

二人は再び、ひとつになった。

エンッ!(イチャイチャの反動で作者が爆発する音)

↑ちなみに、ユーリア城のイメージです。参考資料のところにも置いてますが。

それと、また新たに、御二方より朱弓にレビューを頂きました。

普段から皆様のご感想も楽しみに拝見させて頂いておりますが、レビューを頂くのもまた格別に嬉しいものです!

Daiouika様、九傷様、ありがとうございました!!

次回はぼちぼちサティナに帰還予定です。イチャイチャも継続させる所存!(満身創痍)

72. 展望

前回のあらすじ

領主 我が愛人となれ、アイリーン!!

ケイ 断る!!

領主 !?

明くる日。

天気はあいにくの曇りだった。

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